
『アサシン クリード シャドウズ』 レビュー
『アサシン クリード』シリーズ最新作、『アサシン クリード シャドウズ』のレビューです。
色々と世間を賑やかせた本作ですが、まずはしっかりゲームとしての本作を見ていきたいと思います。
シリーズ初の日本の戦国時代を舞台とした作品
本作は、戦国時代、「本能寺の変」前後の近畿地方を舞台とし、伊賀忍者で仮想のキャラクターとなる「奈緒江」と実在し織田信長に仕えた「弥助」のW主人公で展開される作品となっています。
シリーズ屈指と言える部分も残念な部分もあるストーリー・カットシーン
本作は、シリーズお馴染みと言える豊富なボリュームのクエスト量になるのですが、その多くのものにしっかりと会話などカットシーンが用意されており、その全体ボリュームは、「アサクリ」史上どころかゲーム史上最高のボリュームなのではと感じるほどです。
一部のストーリーは非常によくできており、特に「奈緒江」と「弥助」の出会いのシーンはシリーズ屈指の出来の良さと言える部分です。

一方で残念なのは、今回のメインの敵となる「百鬼衆」の描き方で、ヴィランとしての描写が足りず、それぞれの討伐のタイミングでそのバックボーンが語られる程度となっており、明らかにストーリーとしては薄いものとなっています。
また、「アサクリ」シリーズ共通の宿敵となる「テンプル騎士団」も一応「百鬼衆」との絡みはあるものの、その関わり方は限定的で、「アサクリ」シリーズとしては物足りない影の薄い存在になってしまっています。
一応、主人公の一人「弥助」の関連クエストで描かれますが、あくまでも「弥助」個人との関わりが描かれるに留まっており、シリーズで最も存在感のない描き方となってしまっています。
もう一方の主人公「奈緒江」についてもあくまでも個人的な事情を中心に描かれており、間違いなく「アサシン教団」ではあるもの、エンディングの時点でもまだその全貌が語られるまでに至ってなく途中で終わってしまった感があります。次回作も日本が舞台というのは考えにくいので、描かれるとしたらDLCになるのだとは思いますが、逆にDLCで描かれなかったら、ストーリー的には中途半端な状態となってしまいます。
主人公二人の差別化とアクション
忍者「奈緒江」と侍として設定された「弥助」ですが、アクション面でも大きく差別化されています。
侍である「弥助」は近接戦闘に非常に強く体力、攻撃力、防御面のいずれも「奈緒江」より強いです。ただし、本シリーズの特徴の一つであるパルクールなどの移動面は侍であるため、非常に動作が重く、登れる壁も「奈緒江」と比較して低い壁しか登れません。
一方で忍者である「奈緒江」はパルクールに優れステルス特化の性能となっています。近接戦闘ももちろん可能ですが、「弥助」ほどの攻撃力や耐久力は持ち合わせていません。
一部、クエスト中にキャラクター固定の場面もありますが、基本的には戦闘区域でなければいつでもキャラクター切り替えは可能です。
バトル自体は最近の流行りと言うべきなのか、緩いパリィを主体としたゲームとなっており、それぞれ異なる武器を使用できます。
装備はそれぞれ専用の装備となり、パークもキャラクター個々に異なりますが、レベルは共有しているので、キャラクターの成長という意味ではそれほど気にしなくてもいいような実装になっています。

日本を感じるオープンワールドと素晴らしい四季の表現。
明暗が生み出す素晴らしい表現と問題点
近畿地方をギュッとコンパクトにしたようなオープンワールドとなっており(と言ってもオープンワールドとしてはかなり広い設計となっています)、日本らしく連なる山々の隙間に街などが存在するという構造は非常に日本を感じるものとなっています。
建物デザインなどもしっかり日本を感じるものとなっており、これを海外デベロッパーが開発したと考えると驚異的であるとも感じます。
一方で、『アサシン クリード オリジンズ』から続くオープンワールド作品と比較すると決定的な違いが幾つかあり、その一つが狭い道と急な坂が多い地形です。
山々が連なる地形ということもあって急な坂が多く、キャラクターが登れないため、これまでのシリーズのように移動の自由度に制限が出てしまっています。ただし、ロケーションのほとんどは道で繋がっている為、基本的には道に沿って目的地を目指さざるを得ない形になっています。

また、自然の壁もこれまでの過去シリーズでは自由に登れていましたが、本作ではそれができなくなっており、パルクール性能が高い「奈緒江」でもキャラクターが登れる最大の高さまでに掴まれる箇所がない場合には壁が登れないようになっており、基本的には設計された壁のみ登れるという仕様になっています。建物の壁は「奈緒江」が鉤縄(いわゆるグラップリングフック)を持っている為、快適になっていると感じる部分もあります。
本作には四季の表現があり、オープンワールド作品としてはかなりの挑戦だったのではないかと思います。その表現は素晴らしく、どの季節も非常に見応えのあるものとなっています。

本作は明暗の表現が素晴らしくシリーズ初となる暗い影に潜むというステルスが可能となっています。
ただし、この暗の部分が一部で問題になっており、非常に暗いため画面が真っ暗で判別がしにくいという状況が生まれています。アクティビティの一つに古墳の探索というものがあり、当然光の届かない地下での探索な為、非常に暗い状況での探索となってしまっています。こういう場面では松明ぐらいは使わせてほしかったと感じます。

シリーズ最低の音楽
敢えて明言は避けますが、参加しているアーティストの音楽が本当に最低で戦国時代の描写と全く合っていない、聴くに堪えない状況になっていると感じます。幸いそれほど多くはないのでまだよかったです。
本作は何を間違えてしまったのか?いろいろな騒動について
本作は発表時から多くの批判と炎上の対象となってしまいました。
結局の所、最初の「弥助を侍として描いたこと」を史実であると取れる発言をしてしまったことがきっかけだったと感じます。採用した歴史のアドバイザーとして紹介された人物が怪しいという点もあり、その影響も多分にあるんだと思いますが、「アサクリ」シリーズが決して歴史シミュレーターではなく、ファンタジーであることを基本として認識しておけば、少し違った発言ができたのではないかと思います。
「弥助」が史実としては謎が多い人物であることを明言した上で、「侍」と設定し成長する物語、そして日本人ではなく外国人から見た日本を描く物語を演出したかったと言えばまた少し違った流れになったのではと考えてしまいます。
結局、この発言以降、指摘されることに対して開発側のしてきたことをすべて肯定するための発言や行動を繰り返し、結果的にそれらが日本の戦国時代の文化や季節などを「素材」としてしか捉えてなく、リスペクトに欠けたと感じられたのだと思います。
ゲームとしての評価
総評としては「いつものアサクリ」の範疇であり、季節の表現など挑戦している部分も見られますが、最近のUbisoftゲームと同様に革新的な「何か」を感じられる作品ではありません。
ただ、よくよく考えてみるとこの膨大なカットシーンやコンテンツの量を制作できるデベロッパーは世界的に見てもかなり限定的ではあるというのも間違いない点です。
あとはこの豊富なリソースをより深みのあるコンテンツ実装の方向に向けてくれればと願うばかりです。
また、本作は炎上系や批判系動画の制作者のいい餌になってしまった感があります。
もちろんそのきっかけを作ってしまったのはUbisoftであることに間違いはありませんが、行き過ぎた批判であるとも感じるものもあるので、プレイヤー自身がしっかりと判断する必要がある部分だとも思います。Ubisoft自体もその発言や行動、そしてアドバイザーの選考はもっと慎重かつ丁寧にするべきだと感じます。